多くの人が「変化がほしい」「もっとよくなりたい」
という思いを胸に抱き、
新しい何かを求めてチャレンジする。
でも、いざ取り組んでみると、
予期せぬことや、自分の未熟さや、
他者の評価などが立ちはだかり、
これまで築いてきた小さな自信さえも
容赦なく叩きのめされ、
自己否定の感情の渦にのみこまれる。
これまで幾度となく、
「私には無理」「求めているものと違う」
「そこまでしなくても充分幸せ」と
夢を手放し、諦めてきただろう。
昨夜、眉間にシワを寄せながらやってきた彼女。
「何かあったの?」と聞くと、
「どんなに頑張ってもうまくできない」と言って
ぽろぽろ涙をこぼしはじめました。
自分の至らなさ、不甲斐なさによって
対価にふさわしい仕事ができず、
皆の期待に応えられない悔しさに
涙していたのです。
彼女の心に触れながら思い起こすのは、
「初心忘るべからず」という世阿弥の言葉。
この言葉は、
〝最初の新鮮な気持ち、志を忘れてはいけない〟という
若き日の初々しい時代を肯定するものではなく、
〝あの頃の惨めな自分にはもう二度と戻りたくない〟と、
理想を追い求め、努力を厭わない生き方へと奮い立たせる言葉。
理想の在り方など、
いつまでたっても到達できないのかもしれない。
けれど、容易に手に入る愉しさよりも、
苦悩して手に入れる幸せを掴みたい。
それは、惨めな自分に打ち勝つことでしか成し得ないこと。
涙を流した彼女は、瞳の奥に強い輝きを湛え、
「わたし、がんばります」と言い残し、
笑顔で帰っていきました。
自分が自分の〝最良の支援者〟であることを実践する。
挫けそうなときは、自らの手で背中を押し、
達成したときには、自らを惜しみなく称える。
そして私も彼女にとって〝最良の支援者〟でありたいと
こころに誓った夜でした。